小中一貫教育全国サミット2011 in 呉
~小中一貫教育でひろがるこどもたちの“学び”~
日付:2011年07月28日、29日
場所:呉市文化ホール
主催者:小中一貫教育全国連絡協議会
狙い
22年度鎌倉市で策定された小中一貫教育基本方針。この基本方針に沿ってモデル校調査協力校における実践についての検証と課題等の検討が今年度から25年度まで行われ、26年度から全市において順次実施される計画となっている。
今回のサミットのテーマは、小中一貫教育を実施して10年が経過した呉市の教育事情の実態、また教育を受けた子どもたちが何を考え、また小中一貫教育についてどういった感想を持っているのか、また初めての授業を公開する中で参加者にその成果を見せるプログラムとなっている。具体的な成果を検証するために参加した。
小中一貫教育の現状
文部科学省からは、中央教育審議会において初等中等教育分科会の下に「学校階段間の連携・接続に関する分科会」が設置され、小中一貫教育を含めた学校階段間の円滑な連携・接続等について専門的な調査審議を行う事が報告されている。
開催地・呉での取り組み
平成12年に開始された呉市の小中一貫教育の歩みは16年にその内容を中央教育審議会に報告、また17年にはその内容を踏まえた、「新しい時代の義務教育を創造する」答申へと繋がった。これを契機としてそれまでの小中連携から小中一貫へと意識の変容が図られ全国的に拡大していった。
平成19年には市内28の全中学校区で小中一貫教育をスタートさせ現在に至る。ほぼ分離型での実施であり、呉市としては連続の学び、自尊感情の育成をメインとし「夢をもち、その夢を志に高め自分の道へと進む」という目指す子ども像の確立を行い、育成を目指す。
実践発表から(呉市・教育委員会 小中一貫教育指導係)
- ブロック別に学校経営研修会を実施し、管理職のリーダーシップの向上を図る
- 年3回の公開授業を経てその質を高める
- コーディネーターの役割は教員と生徒を繋ぐのみならず中学校区外と連携すること 専門家による研修も実施する。
ひとえにコーディネーターが一貫教育の推進役の要となるため加配措置した 28校区全てを研究して4年で一巡できる体制をととのえ、今年度は2巡目である。 - 成果としては明らかな(学力テスト結果による)学力の向上。小中すべての教科で県平均を上回る。また問題行動も激減した。今後、地域・保護者との共同、まきこみをどう強化するか、また中学校区の特色を生かしたカリキュラムづくりを行う。
子どもシンポジウム
サミットでは初となる子どもたちによるシンポジウムが行われた。小学校3年の児童から中学生、高校生まで5人のパネリストによって小中一貫教育への感想が語られた。おおむね好意的な内容で語られ、例えば合同行事の運動会などは特定の学年の組み合わせ(たとえば3、8年生、4,9年生だけではなく)全校生徒が一緒にできる取り組みを拡大してほしいという要望があがったほどである。
公開授業
和庄中学校区の見学を行った。
- 数学科学習指導案について
- 8年1組 38名 小中学校教諭1名ずつ
- 連立方程式の利用
- 中学校での解法を学ばせた後に小学校での学び方を復習し、どちらがより簡易な解き方であるかを実感させる。一つの回答で満足するのではなく、他の解法を考えることにより、より良い方法を考えさせ、意欲的に学ぶ姿をひきだそうとする。
- 2人体制で見ることについて、また小学校の解法については具体的な例を現物で出すことによってイメージしやすい方法をとる(箱入り大福を買ったた場合の個数と値段についてでは実際箱と大福を用意している)
分科会
コーディネーターの役割(組織運営のあり方)を選択
- 栃木県宇都宮市、大阪府堺市、広島県呉市の発表
- 助言者;千葉大学 天笠氏
- 堺市美木多中学校報告
- もともと数学科の教員が校区小学校に校種間移動し、3年後に本校に戻り、教科の指導方法や生徒の指導体制等における小中の違いを学校レベルで体験してきた
- 上記の流れを踏まえ学力向上や問題行動の解消を図るために学力向上重点校として10中学校区を指定し学力向上推進リーダーを配置して、小中連携からスタートした
- 平成22年度に同リーダーを小中一貫教育推進リーダーとして13中学校区に配置
- 平成23年度に21中学校区に拡充
- しかし、教育委員会が設定するマニュアルなど存在せず、各リーダーに任せる
- がために、各リーダーは小中学校の文化に違いをどう融合させるか、またその場の設定に苦労した
- 5つの項目に絞り展開した
- 推進リーダーの兼務授業
- 小中3校教員への情報発信と共有
- 教員間の交流
- 異年齢交流
- 保護者・地域との連携
- 呉市からの発表
- 合同研究のための組織づくりにおいて各校の組織と合同組織のギャップがあった。 組織は2年ごとぐらいに壁にあたるたびに作り変え、より効率的・効果的な運営を模索
- 部会の絞込みと集中実施のため重点研究テーマによって組織を組み替えた
- コーディネーターの役割は意識の共有。
1年間の研究のねらいと方向性をそろえる スタートの4月は重要。年度末は運営面で合同行事を決定し、その後合同授業を設定する - 研究推進委員会での協議内容はその日に全教職員に配布する
- 部会での研究と実践を積み上げてきた成果がでてきたが、部会研究の成果が学園全体に広がっていない→教職員一人一人の意識改革が必要
各市における一貫教育は開始年度、状況ともにばらつきがあるが、全体協議では以下のように取組状況、意見集約などが行われた。
○ 小中一貫教育推進のためのコーディネーターはどうあるべきか
- 各校間、教員の調整 教務主任との連絡が必要
- 教育委員会に週一度集まって状況・情報を共有しあう
- 9年間の各カリキュラム作成の任を負う
- 他のリーダーとカリキュラムの作成を行う
- 組織作りについては当初 知・徳・体の部会を設定したが、部会の充実を図るために一本化した 当然ながら関わる教師が多ければ多いほど部会も充実した内容となる
○ 教育委員会からコーディネーターへの期待
- 教育委員会自体がコーディネーターの役割を果たす自治体もある
- 教育委員会の目指す方向性についてどのように伝え共有するか
- 一緒に考えられる細部までの情報交換・共有が必要
- 一校ずつまわる中で中学校教諭の指導技術を高めたいと考える、小学校においては ある程度達成している
- 指導力確保のためコーディネーターの後補充も検討している
- なお京都においては全ての各学校にコーディネーターを配置している
- 小中連携は進んでいるが、一貫という視点を広げたい
助言者:天笠氏からのまとめ
- コーディネーターは孤立感・孤独感があり、とりわけ教育委員会からの具体的な指示がない場合困難に陥る。
宇都宮)推進主任には前向きで、また適当に経験を積んでいる、という観点から人選を行っている 力量、年齢をよく考慮すべき。 - 確定した役割ではなくて、動いて初めて道筋がつけられる 小中学校をつなぐのは基本中の基本だが
- コーディネーターが乗りいれ授業を行っても線だけのつながりで広がりがない。そのため最低でも2~3年の視点を持って全体計画として考えるべき
- コーディネーター個人では限界がある。乗り超えるには組織力が必要。自らがその組織を作り出すのかそのままか、課題達成ごとに応じた組織づくりが必要
総括
- 呉市では実施からほぼ10年が経過しているが、それでも効率的な運営のための組織改変、教職員の意識改革のためのすばやい情報伝達など不断の努力が続けられていることに驚く。
- もっとも呉市の各校での取り組み状況のプレゼンは各教職員ともに大変レベルが高く、熱意のこもった内容であり、通常期において公開授業が数多く行われ、発表の場も多く与えられていることが研鑽を積む場の提供となっていることは想像に難くない。
- 今回選択したコーディネーターの役割をどう設定するのかということは小中一貫教育の成功の鍵を握ることは間違いなく、分科会での方向にあったように年齢・経験を考慮した前向きに動いてもらえる人材をいかに登用できるかが大変重要だ。
- 併せて援護射撃となる教育委員会から体制・運営についての組織づくりについてどう発信を行うのか。今年度鎌倉市において着手されている推進校での取り組みの検証は着実に実施する必要がある。
- なお来年度は京都市での実施であり、小中一貫教育のみならずコミュニティースクールとしても同市は名高い。小中一貫教育を推進するには学校のみならず地域の子どもをどう育てるのか、という視点において地域・保護者との連携は欠かせない。どういった強みを持てるのか検証できるプログラムと期待される。