視察レポート(2011年02月02日)

札幌子どもの権利条例について

日付:2011年02月02日(水)

視察のねらい

札幌市では「札幌市子どもの最善の利益を実現するための権利条例」が平成21年4月に施行された。これに伴い子どもの権利救済機関の子どもアシストセンターも開設され、実効的な体制づくりも行われている。

現在鎌倉市議会では条例制定を視野にいれた政策法務研究会を立ち上げ、各テーマごとに研究を行っており、そのうち1チームで子どもに関する条例制定について活動している。子ども条例に関しては様々な切り口があるが、権利条例について研究するため視察を行った。

ヒヤリング事項

  1. 制定の経緯
    平成15年に市長マニフェストによる施政方針「さっぽろ元気ビジョン」発表され、権利条例制定の方向性が発表された。平成17年には条例検討委員会が発足。平成18年に条例素案に対するパブリックコメントが実施され、平成19年に議会提案が行われたが、賛成少数により否決となる。平成19年 市長二期目のさっぽろ元気ビジョンで早期制定が明記され、構成員を変更し条例検討委員会が発足した。当初条例案についての修正の考え方と新たな救済機関設置に関する基本的な枠組みが答申される。平成20年条例素案に対するパブリックコメントが実施され、条例案が5月に議会に提出されるが、継続審議となる。同年11月「札幌市子どもの最善の利益を実現するための権利条例」と修正、付帯決議も行われ可決される。平成21年4月条例施行とともに子どもアシストセンターが開設される。
  2. 調査事項に対する回答
    条例の制定に関する市民などからの反応はどのようなものでしたか。当初条例案については、大人、子ども合わせて3,504通のパブリックコメントが寄せられ大変大きな関心が寄せられたと評価している。条例制定により、これまでと違った具体的な状況の変化が生じていますか。
    現在まで札幌市では子ども議会の実施や、児童館についても子ども運営委員会を行い運営についてのアイディアを寄せてもらうなど子どもの意見を反映する取り組みは行ってきており、今回の条例制定はそれらの位置づけを改めて行うものと捉えている。一方で、現在まで子どもと接点の少なかった部署も、子どもから積極的に意見聴取を行うようになり、子どもの意見を聞くためのガイドラインも策定した。条例の上位法として、憲法と条約を位置付けていますが、国内法(例えば児童福祉法など)との関係で、条例制定時にご苦労された点は何ですか。

    憲法・条約を逸脱する内容ではないため、特段にない。

    制定までの課題について

    子ども条例制定は市長マニフェストの掲載事項であり、施政方針にも取り上げられながら、議会での否決などもあり、その後具体的な救済機関についての枠組みを取り入れ2度目の提案で可決された。また市民にも「権利」と謳っていることについての理解が早急に進まず、周知を行うことも必要であった。

その他当日の質疑など

次世代育成支援法に基づく子育て支援推進計画との連動性は
→ 子ども権利条例は子育て施策の中の一施策、とりわけ権利・救済の部分に特化した内容として位置づけられている。

陳情審査はどのような方法をとっているのか(本条例に関して700本以上の陳情が寄せられたことに対して)
→ 陳情のみ扱う日を別日程で組み、審議を行っている

子ども議会の運営状況はどのようなものか
→ 小学5年生から高校生まで40~60名で構成され毎年応募して開催している

アシストセンターについて 母親の利用が伸びている原因は
→ 周知がすすんだものと思われる

アシストセンターについて フリーダイヤルを実施した経費はどの程度か
→ 18万~20万円程度

所感

子ども、青少年のまちづくり、自治基本についての条例制定が市長の強い意向であったことが本条例制定のスタートとなっている。

しかし担当者によれば、それは将来のまちづくりの主役を担う子どもたちの意見を聞く事が主眼であり、権利条例によく盛り込まれている、「子どもの参加機会の確保」の実質的な担保に繋がっている。

大人になってからまちづくりについての見識・参加意識の醸成育成は中々困難であることは明白で、子どものうちからその機会を保障する本取り組みは大変参考になった。札幌市では元来子どもの参加を促す各仕組みが実行されていたということだが、条例制定により従来実績の少なかった分野にまで子どもの意見を反映させる姿勢が整いつつあることは評価に値するのではないだろうか。

なお、当初案についてパブリックコメントが3500件以上寄せられたことは、市民からの大いなる関心とともに、「子どもの権利」の濫用の危険性、また救済や理解の促進など様々な指摘があったことをうかがわせる。

しかし当初条例案が否決されたことにより、新たな救済機関設置に関する基本的な枠組みなどが検討され、現アシストセンターの設置につながったことは結果的に良い方向だったと考える。なお現アシストセンターでは小学生向けのフリーダイヤルを設置したこと等から小学生の利用率増加と認知度も高く、実効性の高い取り組みを行っていると評価できる。

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